神谷明は賭けに勝つことができるのか?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090919-00000049-spn-ent

「報酬で確執?神谷明 コナンの毛利小五郎役解任」

私は名探偵コナンにそれほど興味はないのですが、この話題はそこそこ世間でも騒がれていますね。この文章を見てちょっと気になった点があります。

番組関係者によると、「降板の理由は、声優の報酬に関し、映像制作者側と確執があった」という。およそ40年のキャリアを持ち声優界の大御所として知られる神谷は、“顔出し”の俳優と比べて収入が低い声優の生活向上に尽力していた1人。俳優に代わってテレビ局や制作会社などと交渉する「協同組合日本俳優連合」を7、8年前に退会してからは、フリーの立場として、DVDなどの2次使用料の権利を制作会社などに対して主張。時に過剰な要求をすることもあったといい、折り合えなかったことで今回の降板につながったとみられる。

この意見を誰が言っているのかという点です。最初に出てきた番組関係者なのか、それとも客観的事実なのか。

まず、番組関係者というのがクセモノです。マスコミは平気で「関係者」という第三者を装った「主観」をねじ込もうとするからです。よくあるのが、芸能ネタで「芸能関係者」「業界関係者」「○○に詳しい専門家」の発言として、「あの芸能人の評判は悪いというのが周辺では一般的だった」とか言わせるものです。こんなの、芸隣で取材している芸能レポーターに聞いたって「芸能関係者」とできるわけですから、これほど都合のいい言葉はありません。


まあマスコミ批判は置いといて、次に「過剰な要求」というのはどのようなことを意味するのかということです。

こういう書き方をすれば、当然「金の亡者」的な意識を読者に植え付けることができます。ただ、過剰というのが「他の声優はこのような要求はしなかったが、神谷明は要求をしていた」という状況でも、過剰とみられることもあるかもしれません。


「なぜ神谷だけが二次使用料を要求してくるんだ!彼の要求は過剰じゃないか!」


使用者たる製作者側からはこのような声が出ることも考えられます。もちろん憶測です。本当に誰が見ても過剰な要求だったかもしれませんが、情報源がぼかされているため、どういう主観で言っているかも分かりません。


本来、毛利小五郎役の降板は10月頃、後任の役者の発表とともに「少年サンデー」上で発表されるはずであったとされ、この意味では神谷氏側が掟を破ったとも受け止められます。

ただ、これは神谷明の「賭け」だったのではないでしょうか。


声優という職業のギャラが低いという話は、こういう業界に興味のある人であれば結構有名な話ではないかと思いますが、おそらく世の中の大多数の人には興味のないことだと思います。


とりあえず、神谷明降板というニュースは少なくともネット上では話題になってます(TVでどうなっているかは知りませんが、多分話題にもしないでしょう)。これが10月に発表したのではここまで反響は得られなかったでしょうし、そこで神谷氏側が何か言っても、ある意味「言い訳」がましくなってしまったように思えます。


そして、今これほど話題にできる声優というのが何人いるかという話もあると思います。たとえば、今人気絶頂のアイドル声優が同じようなことをしても、一部界隈ではそりゃ大変なことになるでしょうが、世間の人間には「何それ?」で終わってしまうでしょう。ただ、これが「ケンシロウ」「キン肉マン」「毛利小五郎」の「神谷明」となれば、世間の注目度はかなり違うはずです。

かつて、アニメのマーケットというのは「子供」がターゲットでした。先にあげた神谷氏の代表作がみな、子供の間で広く人気を博し、成長して大人になった今でも一般社会(一般って言い方はおかしいけど、わかりやすい表現ということで許してください)のなかで「北斗の拳」「キン肉マン」などはある程度の知名度があります。

しかし、今アニメのメインターゲットに所謂「オタク(これも嫌な言い方だけど)」という人たちが出現した今、その狭い中だけでマーケットが成り立ったというメリットがあった反面、それが何十年後かに世間一般に広まっているかというと、おそらく疑問符が浮かぶでしょう。今人気絶頂の声優が20年後もその人気を保ち続けていたとしても、それが世間全体のパーセンテージからいえば知名度・影響力は小さなものになるはずです。


そういうところを考えると、今回の行動がある意味、声優界にとって最後のチャンスなのではないか?神谷氏はそう考えたのかもしれません。

(まあ最後の○○なんてのもアテになんないですけどね。20世紀最後のアイドルが高橋由美子だったりしたわけですし)


今、アニメの映画が実写の映画の興行収入を上回ることは珍しくありません。おなじ収入があるにもかかわらず、演者の収入に天と地ほどの差があるということに納得がいかないという気持ちも確かにわかります。


ただ、神谷氏の賭けはいい方向に向かうでしょうか?まず、このニュースの続編が何度かニュースに取り上げられるかというところにも関わってきますが、もしこのままニュースに上がらなければ、残っているのは「名探偵コナン」を見ている人だけが若干違和感を覚えるというだけで終わります。

また、この「違和感」というのも微妙なものです。たとえば、サザエさんではカツオ、ワカメなど主要キャストが代わった今も続いていますが、もはや違和感を覚える人は少なくなっているのではないでしょうか?何気にノリスケの声がここ10年くらいで2回変わっているということについては気づいていない人もいるはずです。

ドラえもん」や「ルパン3世」は主役が入れ替わった例です(今回の降板とは趣旨が違いますが)。さすがに大山のぶ代ドラえもんを降板するという話は世間に大きく広まりましたし、今でも「昔のドラえもんと今のは別モノ」と考える人が大勢いますが、この場合のメインターゲットである子ども(特に今5〜6歳位)にとっては、今のドラえもんの声が普通であって、大山のぶ代の声に違和感を覚えるかもしれません。
ルパン3世についてはモノマネをしていた栗田貫一を使うという離れ業を使いましたが、何やかんや今でもスペシャル版は続いています。


実写ドラマでは、たとえば「渡る世間は鬼ばかり」で、岡倉大吉(簡単に言うと泉ピンコの実父役ね)が故藤岡琢也から宇津井健に代わってそのまま放映されるづけるという例もありますが、さすがに泉ピンコが仮に降板するようなことがあればドラマは成立しないでしょう。


あと、考えられるのは世間の人の考え方です。「俳優は演技を全部見られるけど、声優はしょせん声だけでしょ」と思われてしまえば、待遇向上など望むべくもありません。

まず問題提起として世間に受け入れられるかどうか・・・。

とりあえず、今後が気になります。